5. ドングリ探し

ドングリを知ろうと思い始めたキッカケ

2012年の晩秋、煙道付炉穴は堅果類を保存用に乾燥した施設ではないか、と発掘調査しながら考え始めた。それなら、ドングリについて多少は知っておかないと文字どおり話にならない、と思った。

ドングリのほかにクルミやトチの実といった、硬い木の実を堅果類(ナッツ)と呼ぶことまでは知っていた。そして第1章でも触れたように、「ドングリ」という言葉の一番広い使い方だと、ブナ科全部の実を意味することを最初に知った。そこで、ブナ科全22種のドングリと葉を集めよう、と思い立った。

しかし、すでにドングリの季節は終わりかけていた。結局、この年は予備活動という感じでおわり、2年目の秋から本格的に探し始めた。そして3年目からは、実生(みしょう=芽生えたばかりの苗)も探し始めた。また、拾ってきたドングリの実を植木鉢に蒔いた。それからは、芽が出るのを待って毎日眺めて暮らすようになった。

ドングリ探しの始まり

「探す」と言っても、どんな種類があって、どんな形をしているのか、まったく知らなかった。そこで、ネットを活用した。これは便利で大いに勉強させていただいたし、同好の士(先輩・先生)がたくさんいることが嬉しかった。 

また、妻が本をいろいろ探してきてくれた。最初は絵本だったが、当時はそれがちょうど良かった。「ドングリ探訪記」的な本は、苦労話もおもしろかったが、希少種のある所を知る貴重な情報源にもなった。

こうして次第にノートができていった。そしていよいよ、このノートを片手に探し始めた。

公園とか身近に普通にあるドングリ

我家は、伊勢湾の海岸平野から山が始まる付近の、三重県の津市にある。
ドングリ探しの手始めに、近所のいくつかの公園に行ってみた。すると、どの公園でもほぼ同じドングリが見られた。マテバシイコナラクヌギウバメガシそしてアラカシシラカシは、常連サンだ。

コナラ亜属(ナラの仲間)7種(上左からコナラ・ナラガシワ・ミズナラ・ウバメガシ、下左からクヌギ・アベマキ・カシワ)

スダジイツブラジイは、公園よりも神社やお寺に多い。

クリは田舎では珍しくない。栽培品種との交雑の心配が少ないように、できるだけ山奥で採るように努めた。

里山でもチョット少ないドングリ

イチイガシやシリブカガシ・アベマキの生えている場所は、植物の先生に教えていただいたりした。

イチイガシは、縄文時代の温暖化した頃に列島西部で盛んに食べられていたらしい。しかし、県内では伊勢神宮の禁足地である森のほかには、いなべ市と名張市の神社に数本ずつあるのを知っているだけだ。このほかに近所の神社で幼木を2本ほど発見したが、熱心な氏子さん達の清掃作業でキレイに刈られてしまって残念だった。

イチイガシの森(いなべ市)

シリブカガシは、桑名市多度町の2か所の合計数本を教えていただいたが、これ以外は知らない。三重県内では希少種ではなかろうか、と思う。シロウトながら。ともかく、シリブカガシは一番艶っぽくて魅力的だ。

アベマキは、菰野町の公園にたくさん並んでいた。秋には実を、春には芽を出し始めた実を拾った。冬には立木から厚いコルク質の樹皮を少々失敬した。名古屋の東山植物園にも多い。

ウラジロガシの木は、「何かないか」と林を探し回っていて1本だけ発見した。これには、自分をほめてやりたかった。しかし造園業者の畑だったから、彼女(彼?)の将来が心配だ。

カシワには意外と苦労した。近所でも、海抜100m余りの谷沿いでも、静岡県の平野部にある実家付近でも、木はあるが実がつかない。結局、教えていただいて滋賀県で採集できた。しかし、その後に県内の菰野町でも実をつける木を知ることができた。

ナラガシワは、近所を車で探し回っていて妻が発見した。その後に奈良県の道を走っていた時、妻の第六感で急に車を止めて探したら、何本もあった。恐るべし、女の感!
その後、「黄金柏」と名札の付いたナラガシワの栽培品種も見つけて買って来てくれた。

アカガシ亜属(カシの仲間)8種(上左からウラジロガシ・ツクバネガシ・ハナガガシ・イチイガシ、下左からアラカシ・シラカシ・オキナワウラジロガシ・アカガシ)

山で始めて出会ったドングリ

アカガシは、少し高い山で見つけた。長い葉柄と大きめで濃い緑の葉のお蔭で、割と簡単にわかった。

ミズナラは、アカガシより高い所に生えていて、実も葉も採れた。翌年には実生もゲットできた。その名前のお蔭か、なんとなく涼しげなイメージがあって、我家では人気が高い。

ミズナラの実生(野登山)

ブナの実は、2年目にたくさん拾ったが、3年目にはほとんど落ちていなかった。そのかわり、実生を採ることができた。

イヌブナは、ブナと同じ場所にあった。生り年と裏年はブナと同じだったが、実生はブナと違って見つけられなかった。家での育苗にも失敗して、まだ実生がゲットできていない。

マテバシイ・シイ・クリ・ブナ属7種(上左からマテバシイ・シリブカガシ、スダジイ・ツブラジイ、下左からクリ、イヌブナ・ブナ)

遠出してやっと出会ったドングリ

ツクバネガシは県内では発見できず、奈良県まで行ってやっと手に入れた。その後、名張市の赤目渓谷で1本だけ見かけた。

ハナガガシは、大阪の堺にあると本で知って探したが、見つからなかった。そこで、和歌山県の岩出市にまで脚を延ばし、やっと手に入れた。想像していたほど長い葉ではなかったけれど、「遂に!」という感じで嬉しかった。また行って、もっとゲットしようと思っている。

オキナワウラジロガシのドングリは、意外なことで手に入った。なんと、娘が泊まった奄美の民宿でお土産として売っていたのだ。送ってくれたドングリの大きいこと!やっぱり大きいドングリは値打がちがう!
その後、奈良県内の博物館施設で育てている苗を見学することができ、葉をいただくこともできた。

オキナワウラジロガシの梢

遂にこれで、ブナ科22種全ての実と葉をゲットできた。実生も、イヌブナとオキナワウラジロガシを残すだけだ。

親切なお嬢さんと出会ったり

ミズナラやアカガシを夫婦で探していた時、見知らぬお嬢さんが随分熱心に手伝ってくれたこともあった。山の中での私達の不審な行動に興味をもったらしく、後で二人になってから笑った。

マムシと出会ったり

アカガシの木の下で、メガネをはずして地面に顔を近づけてドングリを探していた時、かすかな音がした。そこで顔をあげると、目の前にマムシがいて目が合った。幸いお互いに驚き騒ぐこともなく、静かに離れた。そして改めて近づいて写真を撮ったが、恥ずかしかったのか行ってしまった。

よちよち歩きの子供をライバル視したり

公園の木の下で、よちよち歩きの子とお母さんがドングリ拾いをしていた。私も拾おうとしていたので、先を越されないか内心やや焦った。といって露骨に先に拾っても大人気なく、さりげない振りをして拾った。それでも、見ている人がいたらなんと思ったことやら。冷や汗ものの思い出になってしまった。

集めた20種を三重県総合博物館に寄贈した

集めたドングリや葉は、三重県総合博物館の館長さんに種類の確認(同定)をしていただいた。また、なかなか手にはいらない種のある場所とか、いろいろなことを教えていただくこともできた。

そして最近(2015年7月6日)、手元にある20種の実生を寄贈した。幸い博物館には「観察の林」がある。寄贈した実生がここで大きくなって、見学できる日が来ることが待ち遠しい。

その他のドングリ(オウシュウナラ)

次の第6章では、私の舌で感じたドングリの味についてお話ししたい。

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