4. 縄文時代の炉の分類

縄文時代の炉

縄文人にとっても、火は焼く・煮る・暖房・照明・保安などのために必要不可欠であり、いろいろな形で利用されていた。この、火を使った所を「炉」と呼び、いろいろな種類に分類してみよう(註1)。
なお、ここでの分類の仕方やその名前は、必ずしも一般的なものではない。

炉を大きく分けると「地上炉」と「掘込炉」

炉を大別すると、地面をほとんど掘り込まない「地上炉」と、掘り込んだ「掘込炉」の二つになる。そして掘込炉には、穴が一つの「縦型」と、二つの穴をトンネルでつないだ「横型」がある。

また別な分類をすると、地上炉の多くは「屋内炉」で、掘込炉の多くは「屋外炉」だ。

縄文時代の炉の分類試案(「地上炉」は3種のみを例示)

地上炉には「地床炉」や「石囲炉」などがある

地上炉は「地床炉」や「石囲炉」・「土器埋設複式炉」などと呼ばれて細分されるが、ここでは深入りしないでおく。

地上炉は屋外にもあっただろうが、多くは竪穴住居跡で発見される。竪穴住居は地面を掘り込んで深いため、何千年か後の現在まで残りやすかったからだ。

後世の囲炉裏も、時代と共に土間から床上にあがるが、地上炉の仲間だった。カマド(へっつい・おくどさん)も、分煙という改良を加えたりしているが、地上炉の一種といえる。

掘込炉の内の縦型には「集石炉」と「土坑炉」がある

掘込炉の内の縦型には、集石炉と土坑炉がある。

集石炉は、穴に石を入れて石蒸し焼きしたもので、縄文時代の早い頃や南太平洋に広く見られる。

中野山遺跡の集石炉(図版出典1)

土坑炉は、穴で石を使わずに乾燥・燻製をしたものを仮にこう呼んだ。
開いたフナやコイの乾燥・燻製専用だったと確認された、滋賀県・赤野井湾遺跡の例がある(註2)。

現在の漁村でも、箱形の枠の中で小アジを燻し焼きにしており、掘込炉ではないが原理的に変わらない。

なお、小魚などは火熱による燻し焼きのほかに、日干しもある。燻味の有無という違いはあるが、どちらも保存食料を作ることが本来の目的だ。

小サバの燻製記事(2013.5.15朝日新聞)

横型の掘込炉には煙道付炉穴がある

煙道付炉穴は、二つの縦穴を横穴(煙道)でつないでいることから、横型の掘込炉とした。
そして第3章で述べたように、煙道のある煙道付炉穴は乾燥用、と考えている。

なお、最近注目されている『里山資本主義』に登場するエコストーブ(註3)も、掘込炉ではないが横型炉の一種といえる。

土坑炉と煙道付炉穴の違いは?

土坑炉も煙道付炉穴も、同じように乾燥や燻製用だとすると、それぞれの違いが問題になる。
食材が上を塞いでいる土坑炉は、縦型のために燃料の補給・調整がしにくい。そのため、赤野井湾遺跡例でも現代の例でも、最初の燃料だけでできる火通しの良い食材を対象としている。

一方、煙道付炉穴は横型のために、燃料補給も食材の交換もスムーズにできる。煙道付炉穴は効率的な長時間の操業により適している、と実験して思った(註4)。

煙道付炉穴は何を乾燥したのか?

土坑炉も煙道付炉穴も、やはり何らかの食材が主な対象だったと思われる。そして、動物も一度にたくさん捕れた時には、貯蔵用に乾燥・燻製されただろう。

しかし、第8章でも触れるように、当時の主な食料は植物質だったと考えられている。

植物質食料の内でも長時間の乾燥が必要なものとしては、冬季保存用に大量採集したドングリなどの堅果類の可能性が一番高いと思われる。

また、大量の堅果類を長時間乾燥させる作業には、先にも述べたように、土坑炉よりも燃料や食材の交換が楽な煙道付炉穴の方が適している。

結局、煙道付炉穴ではドングリなどを乾燥させた、と考えられる。

次の第5章では、植物全般に全く予備知識の無かった私が始めた、ドングリ探しの様子をお話ししたい。

- 註 -

註1:
この「ドングリ考古学」は、下記文献をベースにしている。
2014年、山田猛「煙道付炉穴について」『東海地方における縄文時代早期前葉の諸問題』東海縄文研究会
註2:
1998年、内山純蔵・中島経夫ほか『琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書2 赤野井湾遺跡 第4分冊』
2005年、内山純蔵「第3章 縄文人の移動生活-縄文時代の生活パターンの変遷と動因」『日本の狩猟採集-野生生物とともに生きる
註3:
2013年、藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義』
註4:
堅果類の乾燥に煙道付炉穴が適しているとはいえ、土坑炉を使うなど他の方法でも不可能ではない。事実、堅果類を主要な食料としたであろう縄文社会の全域・全期間に煙道付炉穴が採用されたわけではない。煙道付炉穴は、堅果類乾燥の一手法であって特定地域の文化的産物と言うべきだろう。

-補注-
下記の文献において、次のような指摘がすでにされていたことを遅まきながら知った。引用しなかった非礼をご容赦願いたい(2017.12.2)。
煙道付炉穴の選地と作り方については「省力化の志向」を推定し、その機能は「燻製施設」としながらも「保存性という観点」を重視し、「燻製される食材」に「ドングリなどの堅果類」を加え、その「急速に姿を消す」理由を屋内炉との関係で考察されている。
武田寛生ほか『仲道遺跡・寺海遺跡 第二東名№130地点』(浜松市教育委員会、2012年)p432~438

- 図版出典 -

出典1:
2014年、三重県埋蔵文化財センター『近畿自動車道名古屋神戸線(四日市JCT~亀山西JCT)建設事業に伴う埋蔵文化財発掘調査概報Ⅳ』
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